第8回世界合唱シンポジウム・スペシャルリポート!(第6回配信分まで掲載)
2008年09月27日
3年に一度、世界の合唱団と合唱指導者が一堂に集い、セミナー、ワークショッ
プ、コンサートを繰り広げ、合唱音楽の芸術性を高めるとともに、世界の合唱人
のとの交流を図ることを目的として開かれる「世界合唱シンポジウム」。
前回・京都大会の興奮からはや3年、第8回大会がデンマークのコペンハーゲンに
て先ごろ開催されました。
パナムジカにおきましては、その「第8回世界合唱シンポジウム」の様子をいち
早く皆様にお届けいたします。
今回リポーター役を引き受けてくださったのは、今年一番の話題の書籍「悩める
合唱指揮者のための手引き」の著者、合唱指揮者の粟飯原栄子先生です。
シンポジウムへの参加は今回が5回目という"シンポジウムの大ベテラン"に、
「コンサート編」「ワークショップ編」「エクスポ(音楽展)編」など、全6回の
予定で、臨場感溢れるリポートをしていただきます。
その著書同様に、テンポのよい明快な文章で、会場となったガラス張りのコペン
ハーゲン・オペラハウスに私たちをいざなってくれることでしょう。
どうぞお楽しみください!
【世界合唱シンポジウム見聞録】 合唱指揮者 粟飯原栄子
第1回 概要とモーニングコーラス(8月22日配信)
青い空、おだやかな海、舞うカモメ、立ち並ぶ教会の尖塔。
美しい港町、コペンハーゲン。
朝日に輝くガラス張りのオペラハウスに水上バスで渡る。
首から提げた名札と、白いコットンの手提げ袋が参加者のトレードマーク。
笑顔のスタッフに迎えられ、世界中の人々がニコニコしながら右往左往。
モーニングコーラス。午前のレクチャーとコンサート。
サンドイッチとコーヒーでランチタイム。小さな青いリンゴを丸かじり。
隣にいるのはもしかして? あ、あそこにいるのは!・・・目はキョロキョロ。
エクスポ会場で人込みを掻き分けながら楽譜とCDを手に取る。
午後のコンサートとレクチャー。夜のコンサートはどこへ行こうか?
水上バスで街に戻り、ニューハウンのカフェで簡単な夕食。
地図を片手にコンサート会場の教会を探し当て、列に並ぶ。
素晴らしい音を堪能して教会を出ると、外は夕闇。
アイスクリーム片手にそぞろ歩くたくさんの観光客。大道芸人の前の人だかり。
明日は早く起きてマスタークラスのチケットを確保しなくちゃ!
長く明るい1日がようやく暮れる・・・。
ニューハウンの美しい町並み |
海から見たオペラハウス | オペラハウス・ロビー | オペラハウスの食堂 |
モーニングシンギング |
関口さんと |
第2回 コンサート編 Vol.1(8月29日配信)
午前と午後の2回行われるオペラハウスコンサートと、街の教会を会場に行われ
る夜のコンサート。シンポジウムの醍醐味は数々のコンサートです。オペラハウ
スコンサートは約1時間、2団体出演で、6日間に約24団体の演奏が聴けます。
夜は13の教会を会場に、並行して6つのコンサート(多くは2団体出演)が毎晩行
われますから、パンフレットを見て何を聴くかを選びます。
夜のコンサートだけ登場する合唱団もあり、開始時間によっては1晩に2会場を聴
くことも可能です。冊子に紹介されている合唱団は41団体でした。
コンサート会場のひとつ ガルニソン教会 | トリニタティス教会 |
中日の水曜日はシンポジウムがお休み。コペンハーゲン駅前にあるチボリ公園で
の野外コンサートに10団体が出演。チボリコンサートホールでは、タピオラ合唱
団のポホヨラ先生の提唱で始まった「song bridge 歌の架け橋」(子供たちのジョ
イントコンサート)が開催され、4カ国のジュニア合唱団が出演しました。
チボリ公園でのコンサート |
さて、以下に会期中の、特に印象に残った合唱団とコンサートを順不同に紹介し
ます。(一部日本語で表記できない人名・団体名・作品名につきましては、原語
のままとさせていただきました)
1)アルス・ノーヴァ・コペンハーゲン[ARS NOVA Copenhagen] (デンマーク)
スカンジナビアを代表する、各パート3名のプロ混声合唱団。コンサートのほか
マスタークラス(指揮講座)混声部門のモデル合唱団も務めるなど大活躍。
指揮ポール・ヒリアー。
第1夜はギボンズ、タヴェルナー、ジャヌカンなどの古典のほか、トイヴォ・トゥ
レフ(エストニア)の「Summer Rain」(アルス・ノーヴァ委嘱作品)、ペレ・グズ
モンセン=ホルムグレン(デンマーク)の「Three Stages」。
第2夜は、ファイナルコンサートのひとつとして、バッハのモテット4曲他をオー
ケストラ付きで演奏。多彩なレパートリー、美しい音、高い技術などすべてに脱
帽!!
2008.7.20 ガルニソン教会
ARS NOVA Copenhagen
Paul Hillier, conductor
17th century Cries of London - a collage
Orlando Gibbons(1583-1625)
The Cries of London
John Taverner(c.1490-1545)
Gloria
David Lang(*1957)
Again
Clement Janequin(c.1485-1558)
Le Chant des Oiseaux
Toivo Tulev(*1958)
Summer Rain
Pelle Gudmunsen Holmgreen(*1932)
Three Stages
I. In the Street
II. In the Woods
III. Street, Woods, Like as the Waves
2)ベルリン放送合唱団 [Rundfunkchor Berlin] (ドイツ)
教会コンサートのみ2度出演。第1夜は4手のピアノによるブラームスの「ドイツ
レクイエム」(サイモン・ハルシー指揮)。
第2夜に演奏したロジオン・シチェドリンの「封印された天使(The Sealed Angel)」
(シュテファン・パルクマン指揮)は、フルートとモダン・バレエを伴う1時間余
の大曲。
80名の老舗合唱団は圧倒的な重厚感、存在感。正座したくなるようなブラームス
はもちろんのこと、第2夜も興奮冷めやらない総立ちの観客の長い拍手が続く。
作曲家シチェドリン(ロシア)と、妻で元プリマ・バレリーナのマヤ・プリセツカ
ヤが同席。
2008.7.23 ホルメンス教会
Rundfunkchor Berlin, Germany
Simon Halsey, conductor
Johannes Brahms(1833-1897)
Ein deutsches Requiem
2008.7.25 ニュー・カールスベア美術館
Rundfunkchor Berlin, Germany
Stefan Parkman, conductor
Radion Shchedrin(*1932)
The sealed Angel - Liturgy after Leskov
3)スヴァンホルム・シンガーズ [Svanholm Singers] (スウェーデン)
スウェーデンを代表する男声合唱団。将来を嘱望される若手指揮者ソフィア・ソー
ダベルグ・エーバハートの無駄のない、的確な指揮が印象的。ヴェルヨ・トルミ
ス(エストニア)の「鉄の呪い」での太鼓演奏はトルミス本人。他にRuben
Federizonとペーター・ブルーンの作品を演奏。若々しく力強いサウンドと高い
技術、特色あるレパートリーで人気の合唱団。
2008.7.20 ガリニソン教会
Svanholm Singers, Sweden
Sofia Soderberg Eberhard, conductor
Veljo Tormis(*1930)
Parimaalase Lauluke
Veljo Tormis(*1930)
Kaksikpuhendis
Uhte laulu tahaks laulda / Tahed
Veljo Tormis(*1930)
Kord me tuleme tagasi
Ruben Federizon(*1953)
Gabaq-an
Peter Bruun(*1968)
Peace
Veljo Tormis(*1930)
Raua needmine
4)EMO Ensemble (フィンランド)
音楽を勉強する学生と、卒業したプロの歌い手による若い合唱団。指揮はパシ・
ヒュオッキ。彼はマッティ・ヒュオッキの息子で、父親によく似た風貌。ラウタ
ヴァーラ、マデトーヤ、マントゥヤルヴィなどフィンランドの作曲家とアンデシュ
・ヒルボリ(スウェーデン) 、アーダーム・チェル(ハンガリー)の作品ほかを演
奏。 若い指揮者の熱意溢れる指揮と、意欲的なレパートリー、真摯な音楽作り
が印象的。指揮者自身が一部ソロを歌ったほか、妻も団の一員としてソロを担当
する。ソリストたちが秀逸で、特にソプラノが美しく、聴き入った。
2008.7.24 ガリニソン教会
EMO Ensemble, Finland
Pasi Hyokki, conductor
Einojuhani Rautavaara(*1928)
Katedralen
Jaakko Mantyjarvi(*1963)
Canticum Calamitatis Maritimae
Adam Cser(*1979)
Psalmus 70
1. Quia dixerunt inimici mei
2. Dicentes: Deus dereliquit eum
3. Deus ne elongeris a me
Anders Hillborg(*1954)
En midsommarnattsdrom
5)ムジカ・インティマ [musica intima] (カナダ)
指揮者のいない12名のプロ混声アンサンブル。自発性のある音楽は、団員相互の
アイデアで作り上げられたもの。マリー・シェーファー、イマンツ・ラミンシュ、
バリー・カベナ、ジェイムズ・マクミラン、エリック・ウィテカーなどカナダ内
外の現代作曲家の作品のほか、民謡も独特のアレンジで聴かせ、プーランクも演
奏するなど、幅広いレパートリーを持つ、個性的なグループ。
マリー・シェーファーの「マジックソング」のパフォーマンスが画期的。
グループ名のとおり、団員相互の関係が親密で、時に顔を見合わせながら、息を
合わせて歌う“これぞアンサンブル"という、卓越した妙技を披露した。各パー
トが音楽のエネルギーを送り出し、互いにそれを受け止めて、さらに音楽を進め
ていく、響き合わせる、感動的なアンサンブルを堪能。団員のアレンジによる、
サウンド・オブ・ミュージックより「さようなら ごきげんよう」をアンコール
で披露したが(イントロから間奏まですべて声!)実にチャーミング。技巧を感
じさせないゆとりがあり、実力のほどを更に示した。
2008.7.22 カステルス教会
musica intima, Canada
Barrie Cabena(*1933)
I Wanted for the Lord
Imant Raminsh(*1943)
Ave Verum Corpus
James MacMillan(*1959)
A Child's Prayer
Claude Vivier(1948-1983)
Jesus erbarme dich
Rupert Lang(*1948)
Agneau de Dieu
Derek Healey(*1936)
Inuit Hunting Song
Francis Poulenc(1899-1963)
Un Soir de Neige
Eric Whitacre(*1970)
A Boy and a Girl
Arr. Lane Price(*1975)
Down to the River
第3回 コンサート編 Vol.2(9月6日配信)
前回に引き続き、特に印象に残った合唱団とコンサートを紹介しますが、直接聴
いた合唱団に限ることと、私の興味・関心から、北欧の合唱団の紹介が多くなり
ました。午後のコンサートでは、エクスポでの買い物に時間をとられ、聞き逃し
た合唱団もあり、夜の教会コンサートは6会場のコンサートを見比べて苦渋の決
断をせざるを得ず、教会コンサートにだけ登場したグループなど、たくさんの合
唱団が聴けずに残念です。
6)カメラータ室内合唱団[Chamber Choir Camerata] (デンマーク)
30年以上続く、実力派アマチュア混声合唱団(ミカエル・ボイェセン指揮)。
意欲的な現代ア・カペラ作品のほか、オーケストラを伴うオラトリオなど、なん
でもできる合唱団として高い評価を得ている。スヴェン=ダヴィッド・サンドス
トレム(スウェーデン)、エレノア・デイリー(カナダ)、ハワード・スケンプトン
(イギリス)、エリック・ウィテカー(アメリカ)など多国籍の現代作品を演奏。難
度の高い作品を苦もなくこなしていたが、団員によれば、練習は週に1回3時間、
教会や教会付属の建物を使用しているとのこと。
2008.7.21 トリニタティス教会
Chamber Choir Camerata, Denmark
Michael Bojesen, conductor
Anonymous(ancient canon)
Vanitas Vanitatum
Sven-David Sandstrom(*1942)
A new Heaven and a new Earth
Eleanor Daley(*1955)
Requiem(Part 1,4,7,8)
Howard Skempton(*1947)
Rise up, my love
Eric Whitacre(*1970)
This Marriage
Henry Purcell/Sven-David Sandstrom(*1942)
Hear my prayer, o Lord
7)ヒムニア[Hymnia] (デンマーク)
フレミング・ヴィネキレ指揮による、27年目のアマチュア混声合唱団。デンマー
ク国内の現代作曲家と手を組んだ演奏活動、国内外で定評ある作品をレパートリー
とするだけでなく、多国籍の現代作曲家の作品を意欲的に取り上げる活動が高い
評価を得ている。エリック・ウィテカー(アメリカ)、オリヴィエ・メシアン(フ
ランス)、ヤーッコ・マントゥヤルヴィ、エイノユハニ・ラウタヴァーラ(フィン
ランド)の難度の高い作品を見事に演奏。練習は週に1回3時間。前述のカメラー
タとともに、デンマークアマチュア合唱団の層の厚さ、質の高さが垣間見える。
2008.7.22 カステルス教会
Hymnia, Denmark
Flemming Windekilde, conductor
Eric Whitacre(*1970)
Water Night
Olivier Messiaen(1908-1992)
Cinq Rechants
Jaakko Mantyjarvi(*1963)
Canticum Calamitatis Maritimoe
Einojuhani Rautavaara(*1928)
Lorca-sarja
8)ヴォーチ・ノビリ[Voci Nobili] (ノルウェー)
指揮者マリア・ガンボルグ・ヘルベックモの手により1989年に創立された約25名
の少女合唱団。美しい民族衣装を着たメンバーは、オーディションで選ばれたベ
ルゲン大学の学生たちだが、音楽専門ではない。民族色豊かで透明なサウンドが
印象的で、何人か登場したソリストが特に美しく、伸びやかな歌唱で、おおいに
魅了された。
ア・カペラ作品のほか、ピアノ、ドラムスを伴うなど、多彩なレパートリーで聴
衆を楽しませてくれた合唱団だが、指揮者の挨拶によれば、今回を最後に解散す
るとのこと。理由はわからないが、惜しまれる。
2008.7.22 聖霊教会
Voci Nobili, Norway
Maria Gamborg Helbekkmo, conductor
MOSTLY SCANDINAVIAN (part 1)
Norwegian Folktune
Ve no velkomne med aera
Geirr Tveitt(1908-1981)
Ve no velkomne med aera
Arr. Ragnar Rasmussen(*1966)
Pols fra Dunderlandsdalen
Jan Magne Forde(*1960)
Bruremarsj
Karin Rehnqvist(*1957)
Triumf att finnas till
MOSTLY SCANDINAVIAN (part 2)
Arr. Donald Patriquin(*1938)
Two Folksongs from Quebec
Innoria
The false young Man
John Rutter(*1945)
From: Three Birthday Madrigals
My true love hath my Heart
Henry Purcell(1659-1695), arr. Gunnar Erikson
Music for a While
Ward Swingle
It was a Lover and his Las
9)安養(アニャン)市民合唱団[Anyang Civic Chorale](韓国)
韓国のシリコンバレーと呼ばれる京畿(Kyunggi)は建築や芸術でも有名な街。
1987年に地元文化や、芸術への理解を深めることを目指して設立された市民合唱
団は、個性的な演奏や解釈、演出などで国内では良く知られている。韓国で著名
な指揮者イ・サンギルは、韓国の合唱スタイルの継承に加え、技術の向上に向け
た練習法などを生み出し、国内の合唱界を導いている。エリック・ウィテカー(
アメリカ)、ユン・ソンヒョン、パク・ジョンソン、キム・ヒジョ(韓国)の作品
を演奏。アマチュアとは思えない高い演奏技術とともに、演出を伴う民俗音楽で
は、楽しく見事なパフォーマンスを見せて観客を沸かせていた。
アジア、特に隣国の合唱団ということで興味を持って聴いたが、民族性を合唱に
生かそうという韓国の姿勢を明確に感じたと同時に、いろいろな意味で悩みは共
通だと強く感じた。
2008.7.21オペラ・ハウス
Anyang Civic Chorale, South Korea
Sang Kil Lee, conductor
Eric Whitacre (*1970)
Three Flower Songs
Sung-hyun Yoon(*1959)
Arirang
Jung-Sun Park(*1945)
Chungsan Psylgok
Hee-jo Kim(1920-2001)
Poritazak
10)アドルフ・フレデリックス少女合唱団[Adolf Fredriks Flickkor](スウェーデン)
歴史あるアドルフ・フレデリク音楽学校の生徒による少女合唱団。現在の指揮は
ブー・ヨハンソン。難しいとされる子供から少女の年齢層で見事な合唱をするこ
とが高く評価されている。講師ヨハンソンとともに、マスタークラス(同声部門)
のモデル合唱団を務める。カリン・レーンクヴィスト、ヤン・サンドストレム、
ラヨシュ・バールドシュ、ゾルターン・コダーイ、ペッカ・コスティアイネン、
ミクローシュ・コチャールなど小品を数多く演奏。日本のジュニア合唱団にもな
じみ深いハンガリーの作品を演奏したが、ハンガリーの合唱団とのサウンドの違
いが興味深い。
2008.7.20 ホルメンス教会
Adolf Fredriks Flickkor
Bo Jahansson, conductor
Swedish folktune, Choir Improvisation
Till Osterland vill jag fara
Swedish folktune, arr. Hugo Alfven / Jan Ake Hillerud
Uti var hage
Swedish folktune, arr. Jan-Ake Hillerud
I denna ljuva sommartid
Swedish folktune, arr. Jan-Ake Hillerud
Ack Varmeland du skona
Swedish trad., arr. Hugo Hammarstrom(1891-1974)
Harlig ar jorden
Swedish folktune, arr. Susanne Rosenberg
Hemlig stod jag
Zoltan Kodaly(1882-1967)
Punkosdolo
Hugo Hammarstrom(1891-1974)
Kyrie eleison
Swedish folktune, Choir Improvisation
Jag lyfter mina hander
Pekka Kostianinen(*1944)
Regina angelorum
Miklos Kocsar(*1933)
Ave Maria
Claus Vestergaard Jensen(*1955)
Make a joyful Noise
John Hoybye(*1939)
From: The Little Mermaid
Deep down in the Ocean
Swedish folktune, arr. Karin Rehnqvist
I himmelen
11)カメール・ユース合唱団[Jauniesu Koris Kamer] (ラトヴィア)
指揮者リス・シルマイスの主導により1990年に創立された70名のユース混声合唱
団。レパートリーの選択や演奏の質の高さで、ラトヴィア国内および世界で高い
評価を得ている。
今回はこの合唱団が世界中の17人の作曲家に委嘱した「World sun songs」を紹
介した。暗く長い冬を過ごすラトヴィア民族にとって太陽の光、暖かさはことの
ほか重要で、人々は日常生活の中で太陽を切望し、礼賛する。太陽に対する思い
は世界中の人々と共有できるはずだという考えの元に始まったこの企画。各曲の
時間は5分、テキストは太陽をテーマにしたもの、各作曲家の民俗音楽を生かし
て、という条件により、個性的な作品が集まった。17人の作曲家の中に現代日本
を代表する松下耕氏がいてうれしい。演奏は強靭かつ透明な声と、厚みのある響
きが印象的。作品によって民族的な声と、クラシカルな声を使い分けている。さ
すが合唱王国バルト三国代表という存在感を見せた。
2008.7.25 マーブル教会
Jauniesu Koris Kamer, Latvia
Maris Simais
WORLD SUN SONGS (PART2)
John Luther Adams(*1953)
Sky with four Suns
Vytautas Miskinis(*1954)
Neiseik Saulala Saulala
Ko Matsushita(*1962)
Jubilate Deo
Dobrinka Tabakova(*1980)
Of the Sun born
Alberto Grau(*1937)
Salve al Celeste Sol Sonoro
Giya Kancheli(*1935)
Lulling the Sun
Peteris Vasks(*1946)
Piedzimsana
12)ウィネバ・ユース合唱団[Winneba Youth Choir](ガーナ)
1989年に創立された10歳から20歳までという広い年齢層の合唱団は、指揮者ジョ
ン・フランシス・アーサー・ヤモアの指導によって飛躍的な進化を遂げ、今や国
内で存在が認められている。この合唱団の夢は世界に認められる合唱団になるこ
と。アフリカのユース合唱団、アフリカの合唱音楽が世界に認められること。夢
の実現に向けて組織的に他の合唱団とも連動している。演奏は太鼓やピアノを伴
う民俗音楽とア・カペラ作品。体を動かして演奏しているときは生き生きしてい
るが、全体的に緊張が伝わってくるような初々しい合唱団。1曲ごとに団員をね
ぎらう指揮者の姿が印象的。今後のガーナとアフリカ全体の合唱音楽の発展を願っ
てやまない。
Winneba Youth Choir, Ghana
John Francis Arther Yamoah, conductor
Arr. J.H. Nketia(*1921)
Sisi Mbom Tabon Mbom
C.S. Dey (Died late 1970s)
Dzigbodi
Dr. Ephraim Amu(1899-1995)
Abikanfo Mmo
Newlove Annan(*1973)
Hye Yen Mma
Heinz Bemboom(*1926)
Von Guten Machten
Arr. Fred Onovwerosuoke(*1960)
Abanije
Arr. Ablawa Akpovo / Fred Onovwerosuoke(*1983/1960)
Aluwasio
Ephraim Amu(1899-1995)
Bonwire Kentenwene
African-American spiritual, arr. David Robinson II
Rockling Jerusalem
第4回 ワークショップ編 Vol.1(9月13日配信)
シンポジウムでは多彩な講師によるワークショップ(研究集会)、マスタークラ
ス(指揮講座)、作曲家によるラウンドテーブル(座談会)が並行して行われま
す。ワークショップは再演も含めて60講座。マスタークラスは混声合唱2講座、
同声合唱2講座で合計4講座。ラウンドテーブルは各回3〜4人の作曲家が出席して
5回行われました。
まず初めにマスタークラスの様子を紹介します。
講師とモデル合唱団は次のとおりです。
1) 混声合唱
講師:エルヴィン・オルトナー(オーストリア)
モデル合唱団:アルス・ノーヴァ・コペンハーゲン(デンマーク)
2) 同声合唱
講師:ブー・ヨハンソン(スウェーデン)
モデル合唱団:アドルフ・フレデリックス少女合唱団
3) 混声合唱
講師:サイモン・ハルシー(イギリス)
モデル合唱団:アルス・ノーヴァ・コペンハーゲン(デンマーク)
4) 同声合唱
講師:ジムフィラ・ポロス(カザフスタン→カナダ)
モデル合唱団:デンマーク国立教会合唱団(デンマーク)
(4は参加できませんでした)
会場の都合があるのか、今回のワークショップは、朝配布されるチケットを手に
しないと参加できない仕組み。多くの人がマスタークラスに関心を持つため、見
たい人は早起きしなければなりません。それでもチケットが手に入らない日があ
りました。マスタークラスはモデル合唱団を受講生が指揮して学ぶ講座です。受
講生は各講座5名ほど、書類審査で選ばれた、国際色豊かな、若い指揮者たちです。
1) オルトナーの混声合唱講座
東京カンタートなどで日本に再三来日してお馴染みのオルトナー氏は、シェーン
ベルク合唱団の指揮者として、また世界中のマスタークラスの講師として活躍す
る名指揮者。大きな体をいっぱいに動かして語り、指揮する情熱的な人物。受講
生はデンマーク、アメリカ、コスタリカ、日本など。曲目はハイドン、シューベ
ルト、ブラームス、シェーンベルク、ウェーベルンという、オルトナーの母国の
著名な作曲家の作品。
世界中の人々が見守る中、アルス・ノヴァを指揮するだけでも、若い指揮者には
相当なプレッシャーがかかるはず。オルトナーの指導はドイツ語のアーティキュ
レーションと音楽のかかわりに強くこだわり、どちらかといえば受講生の指揮を
見るより、合唱団に対する要望が多い。作品の内容、解釈について熱く語り「ど
うしてもこの音楽はこうあって欲しい!」という彼の想いが伝わる講座展開。
作品の難易度が高いこともあり、受講生の傍らで大きな身振りで示すオルトナー
の迫力に受講生はしばしば立ち往生し、ついには合唱団のメンバーから「受講生
とオルトナーさんと、どちらを見て歌えばいいでしょうか?」という質問が出て
会場を爆笑に誘ったほど。
「次に出るパートにもっと早く顔を向けて」など、初歩的なことを注意される受
講生もいたが、手を取って歌いながらの指導も交え、受講生が次第に音楽に入り
込んで変わっていく様子が見て取れた。「指揮者は音楽を完全に深く理解してい
なければならない」という、根本的なことを講師が体で示し、同時に作品の言語
がいかに音楽表現に重要かを如実に示した、味わいのある講座だった。
日本から参加したのは、九州の福岡で活動する今釜亮さん。よく勉強して、真摯
な態度で臨んだ姿に感銘を受けた。誠実な指揮は好感が持てる。貴重な体験を生
かして、さらなる活躍を期待している。彼の後に続いて、勉強の機会を得る若い
指揮者がたくさん出てほしい。
*MASTER CLASS - ERWIN ORTNER
"von HAYDN bis WEBERN" - Choral Music from Vienna
Joseph Haydn(1732-1809)
Die Beredsamkeit
Franz Schubert(1797-1828)
Chor der Engel
Johannes Brahms(1833-1897)
Nachtwache I und II
Arnold Schoenberg(1874-1951)
De Profundis
Anton Webern(1883-1945)
Entflieht auf leichten Kahnen
2)ヨハンソンの同声合唱講座
大きなお腹を揺すりながら、優しく愉快に話すヨハンソンと、彼の指揮する少女
合唱団の組み合わせ。受講生はシンガポール、デンマークなど。
曲目はバルドシュ、ブストー、カプレ、コスティアイネン、ホルスト、プーラン
クなど、日本の同声合唱団もよく取り上げる定番の小品。この講座の受講生は子
供を扱い慣れているのか、混声講座の受講生よりもリラックスしているように見
える。
ほとんど初見の作品もあり、世界的に有名な少女合唱団の、譜読みの場面を見ら
れたのは貴重な体験だった。ヨハンソンは「内容はとてもいいけど、しゃべりす
ぎだよ。もっと歌わせて指導しよう」「その指揮ではこの歌詞の内容が表わせて
いない。手の平を下に向けて滑らかに振って」「ここの部分に向けて音楽を進め
ていこう」「音楽の変化をもっとはっきり指揮で示して」など、各受講生が与え
られた時間内に、すぐ変われることを的確に指示。どうすれば短時間に合唱団に
音楽を伝えられるか、というポイントを効率よく指導していた。合唱団に対して
も「こう振っているのだから、こうやって歌ってあげて」などと語りかけ、子供
たちに対する日頃の愛情が伝わってくる接し方。数多くの作品を長時間、熱心に
歌う少女たちの透明な歌声。慣れない作品を歌う場合でも、声はきちんと前に響
き、溶け合っている。合唱団の実力にも感嘆した講座だった。
*MASTER CLASS - BO JOHANSSON
Repertoire
Bardos Lajos
Magos a rutafa
Javier Busto
Salve Regina
Egil Hovland
O come let us sing
Andre Caplet
Sanctus
Pekka Kostiainen
Jaakob pojaat
Gustav Holst
Ave Maria
Samuel Barber
To be Sung on the water
Arne Mellnas
Aglepta
Francis Poulenc
Petites voix
3)ハルシーの混声合唱講座
イギリス人の英語は美しい!まずそう感じたこの講座は、若いハルシーの闊達で
勤勉な様子が印象的。モデルはデンマーク、アメリカ、マレーシアなど。曲目は
トーマス・アデス、タリク・オリーガン、ジェイムズ・マクミラン、エリック・
ウィテカー、ジュリアン・アンダーソンの作品。
開始前、参加者に「作品が難しいので、できれば今すぐエクスポ会場で楽譜を買っ
てきてください。今何が起こっているか、楽譜を見たほうがわかるから」と呼び
かける。講座中は受講生と一般参加者に均等に分かりやすく説明する。受講生に
「ここはどうしたいの?」と尋ねるだけでなく、合唱団員に対して「この指揮者
のいいところと直すべきところをあげてみて」「今の指揮はどう思う?」と発言
を促すなど、会場全体を巻き込むのがとてもうまい。団員は相互に「テナーのこ
の部分、もうちょっと積極的に歌ってくれるとやりやすいわ」「OK!」など、良
いアンサンブルを作り上げる過程も見せてくれた。
受講生は臆せず自分の意見を述べるが、団員を説得できないときは、ハルシーが
それを助ける。団員は手を上げて「今の指揮はさっきよりずっと見やすい」「な
るほど、そう表現したいのはわかったけど、もっとその意思を指揮で表わしてく
れると歌いやすいよ」などと積極的に発言。ハルシーは作品の内容を身振り手振
りで細かく解説し、6拍子の2拍目から、しかもカノンで出る難しい作品で、合唱
団がうまく出られない場面では、受講生の手を取り、明確な予備拍の指揮法を指
導。テンポが次第に速くなる癖のある受講生には「頭の中で冷静にきちんと数え
ること、お腹で音楽を感じて、興奮してもそれを失わないこと」と助言。上手に
できた場合は、参加者全員に「どう?このほうがずっといいよね!」と語りかけ
るなど、わかりやすいだけでなく、実に上手に受講生を誉める。
さすがのアルス・ノヴァでも音程が悪いことがある。ハルシーは「原因はこのパー
トのこの音程が悪いため。それを聞き逃さないで指摘して」「指揮が推進力を失
うと音程が下がりやすいよ」と助言。ある場面では合唱団に「どうして音程が悪
いのかな?」と尋ねたところ、団員が「朝だから」と答えたので会場は大爆笑!
指揮法講座の見本というべき、見事な指導だった。
*MASTER CLASS - SIMON HALSEY
Repertoire
Thomas Ades
The Fayrfax Carol
James Macmillan
Tenebrae Responsories
Tarik O'Regan
Tu, Trinitatis Unitas
Eric Whitacre
When David heard
Julian Anderson
Beautiful Valley of Eden
第5回 ワークショップ編 Vol.2(9月19日配信)
前回に続きワークショップなどについて報告します。マスタークラスはチケット
が取れないほどの人気でしたが、その他のワークショップはその点は緩やかです
から、同時間の2講座をハシゴすることも可能でした。体は1つしかなく、毎日
が忙しく過ぎて行くシンポジウムの悩みのタネは、どれに参加するかを考えるこ
と。何ページもある資料からどれを選ぶのか、参加者は常にパンフレットのペー
ジを繰りながら考えます。英文を一読で理解できる人は、楽だと思います。英語
が苦手な参加者には、講義中心の講座より一緒に歌う講座などが魅力的。自由に
良い体験ができる鍵は英語力と言っても過言ではありません。
世界に名高いイギリスのボブ・チルコット(元キングズ・シンガーズメンバー。
作曲家、指揮者などで大活躍)の「リズムを通して表現するエネルギーを見つけ
よう」の講座、アメリカのケイス・テリーの「ボディーパーカッション」の講座、
ドイツのハラルド・イェルスの「音響と響きの考察」など、豪華な講師陣の多岐
にわたるテーマほか、各国の民俗音楽の紹介・体験講座、合唱団が演奏する作曲
家の作品紹介講座なども多数あり、充実していました。
1)ケイス・テリーのボディーパーカッション講座
手と足を使い簡単なリズムを叩くことから始め、掛け声を入れ、拍子が複雑にな
り、ハミングを付け、次第に即興の作品を作り上げる、一連の流れは見事でした。
老若男女の参加者は、複雑なリズムにもすぐ対応し、2つのグループアンサンブ
ルから、最後は4つのグループに分けられ、会場を揺るがすリズムは迫力満点。
細かいことにこだわらない、とにかくやってみよう、楽しもう、失敗しても笑っ
て先に進もうという気楽さと、取り付きやすい指導、巧みな話術、臨機応変のア
イデア。ノリノリのテリーさんはかっこいい!ジャズやロック、アフリカ風その
他モロモロ、複雑怪奇なのに血が騒ぐような、不可思議なリズムの世界に会場を
巻き込んでいた。
ここでも「アンサンブルすること」の極意を学んだ。「グループ別に練習してか
ら合わせる」のではなく、全員でやってすぐグループに分ける。パートを交換し
てもすぐできる。隣りは隣り、自分は自分。自分の担当をしっかり演奏しながら、
周りと関わっていく、互いが絡む面白さを味わう、それがアンサンブルの楽しみ
方であると実感。パート練習から入りがちなコーラスの練習習慣を見直すべきだ
と、あらためて感じた。
ボディーパーカッション講座 |
2)イェルスの「音響と響きの考察」講座
講師はドイツの指揮者。巨大スクリーンに映るコンピューターの画面で「音の振
動」や「声はどこに響くのか」を即座に見せる、ハイテクノロジーを駆使した講
座。母音によって響きが変わっていることを、波形や振動数を表わすカラー画面
で見せられると納得。声はどこを狙えば効率がよいか、顔前だけでなく頭蓋骨全
体を意識し、利用しよう、響かせよう。下や前方向より、やや上方を狙ったほう
が会場に効率よく響く。譜面を持って歌う場合は譜面も反響に利用して自分の響
きを確認しよう、と内容は実践的で具体的。合唱団員がどう並べば良く響くか、
男声は後ろがいいか、SATBがいいか、隣りの人との距離は、などの実験も行う。
後ろからの声と、両隣の声との共鳴を意識すべき、との指摘は、合唱団にとって
重要なポイント。いわば誰もが知っていること、やっていることである「部屋の
音響の利用や発声」を科学的に立証して見せた講座で、新鮮だった。
3)「北欧の民謡を体験しよう」講座
講師はスサンネ・ルーセンベリ(スウェーデン)。著名な民俗音楽シンガー。ストッ
クホルム国立音楽大学の講師。スウェーデン民俗音楽研究の中心人物でもあり、
作曲家と協力して民俗音楽を合唱に生かす活動も行っている。
ジャズやモダンも歌うという多彩な女性講師の、透明で美しい歌声と、明るい笑
顔にまず魅了された。歌詞を書いた模造紙を掲示し、ア・カペラで歌ってみせる。
易しくて美しく、しかも短い歌なので、スウェーデン語で楽譜がなくても、参加
者はすぐ歌える。それにハミングでハーモニーをつける。2つか3つの低音を合わ
せるだけで、コーラスになる。カノンにしてもすぐコーラスになる。溌剌として
明るい話術と歌声に先導され、たちまち会場はコーラスで溢れる。難しいことは
いっさい言わない。間違えても気にしない。随所に独特の「小節(こぶし)」のよ
うな技も披露し「ああ、そういえばそういう音が聴こえるけれど、なんだろうな?」
と参加者は興味しんしん。「こういう場合にヒョッと入れる、自由でいいのよ、
やってみて!」というので真似てみるが、似ているようでどこか違う、それが
「お国柄」だと思う。失われないうちに民族の音楽、子供たちの歌を発掘・保存
し、しかもそれを今に生かす。各国が課題とすべき、現代の合唱と民族文化の融
合。その先頭に立つ人の姿を見た講座だった。
第6回 エクスポ編(9月27日配信)
28のブースに分けられたエクスポ会場では、各国の楽譜、CDの販売業者が軒を連
ねています。普通のお店のように展示台に陳列された楽譜ばかりでなく、机に平
積みの物や、箱に無造作に入れられた楽譜を1枚1枚繰りながら探すのは、時間が
かかります。作曲家名、作品名などさまざまな外国語で、表紙の情報を読むのも
一苦労。アメリカ人から、日本の合唱曲について尋ねられましたが、詳しく知ら
ない作品で返答に苦慮しました。オランダの女性指揮者には「日本の現代作品に
興味があるけれど、オランダでは売っていないので見られない」と言われました。
日本の新しい作品では、歌詞をローマ字表記した楽譜が増えていますから、海外
への流通が盛んになることを期待しています。
人気があるのはやはり北欧諸国。デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィ
ンランドはブースも大きく、いつも混雑していました。カナダなど今回参加して
いない国もありましたが、自分の手で楽譜を開いて選べるエクスポは、シンポジ
ウムの魅力の1つです。
最近日本でも人気が出てきたフィンランドの作曲家レイヨ・ケッコネンは、SULASOL
の顔として健在。今回のシンポジウムで、数多くの合唱団が演奏していた作曲家
ヤーッコ・マントゥヤルヴィも、たびたびブースに顔を出していました。
マントゥヤルヴィは、EMOアンサンブルとともにワークショップの講座を持ち、
作品を紹介しましたし、ケッコネンは座談会に出席するなど大活躍でしたから、
買おうとした両氏の作品はすでに売り切れ。2人の作品にますます興味が湧きまし
た。
ケッコネンさんと | マントゥヤルヴィさんと |
ノルウェーのブースでは「Norwegian Choral Music」というCD2枚付きの分厚い
楽譜が目玉商品。最新の「Choral Music From Norway」というデモンストレーショ
ンCDは、収録曲のほとんどの楽譜が同時発売されています。表紙に「ノルウェー
のサウンド」と日本語表記されているシリーズです。注目の作曲家ウーラ・ヤイ
ロの楽譜も多く出ていました。ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国は、作品
を世界に紹介することに熱心で、楽譜とCDをタイアップさせるなど、工夫が見ら
れます。
日本人にもなじみ深い「Peters」は、ドイツとイギリスとアメリカの3店が独立
して営業しています。明るく元気な女性に強引に呼び込まれ入ったところ、オー
ストラリアの作曲家でサンドラ・ミリケンがいました。サンドラ自身がユースと
女声合唱団を持っているとのことですが、ア・カペラ、ピアノ付き、英語とラテ
ン語の作品を数多く出版。混声と女声の、易しい小品がたくさんありました。印
象に残るのは「SUDOKU」のこと。私はそのパズルゲームを知りませんでしたから
「日本人が作ったゲームを曲にしたのよ!」と言われてもチンプンカンプン。
「数独」のことだとわかり「スドクではなく、スードクです」と伝えましたが、
今や世界中で「SUDOKU」として通っていますから、無駄だったかもしれません。
日本語も含めた数遊びの歌で、子供たちはきっと楽しめるでしょう。どれもが彼
女の人柄そのままに、気取らない作風なので、ぜひ取り上げてみたいと思います。
ミリケンさんと |
ドイツのブースでは、ドイツ民謡をまとめ、合唱曲にした楽譜とCDが同時発売さ
れ、ワークショップでも紹介されました。タイトルは「Loreley, Chorbunch
Deutsche Volkslieder」。4声部の美しい作品が多いので、レパートリーのひと
つして気軽に取り上げられます。アメリカではエリック・ウィテカーが人気。個
性的な作曲家として注目を集めていて、とても多くの合唱団が演奏していただけ
でなく、ワークショップにも登場しました。そして、今年は中国で開催されてい
るWYCですが、過去のCDで紹介され、注目を集めたのが、スロベニアの若い作曲
家ダミアン・モチュニク。モチュニクは気さくで、笑顔の素敵な青年です。新
しい作品を手に入れたので、ぜひ演奏してみたいと思います。他にはデンマーク
のボイェセン、ブルーン、ホイビュ、アイスランドのラスムッセン、リトアニア
のミシュキニスなどが作曲家として招待されています。
モチュニクさんと |
楽譜やCD、作曲家との出会いは運のようなもの。自分の耳で聴き、目で確かめて、
演奏して馴染んでいくものだと思います。今はパソコンの利用で、情報が早く世
界中に回りますから、ある意味では世界の合唱が均一化されていく気がします。
新しい作品を新鮮に味わうのも、名曲の誉れ高い定番の作品や、名のある作曲家
の作品を演奏するのも、指揮者と合唱団の自由です。作曲家の顔を見て話をする
こと、演奏を目の前で聴くことは、カタログやCDだけでは味わえない、作曲家や
合唱団に対する親しみが湧きます。現代に生きる作曲家と、演奏する指揮者、合
唱団が親交を深めることが、合唱界の発展には大切なことだと感じました。
個人の体験では全体は見えませんし、数多い演奏曲は紹介できずに残念ですが、
あらためて体験を整理し、記憶に留めるよい機会になりました。この見聞録で少
しでもシンポジウムの様子がお伝えできたら幸いです。次回のシンポジウムはア
ルゼンチンのパタゴニアでの開催が決定しました。3年後にぜひお出かけくださ
い。(完)